ゲノム編集技術を活用したGABA高蓄積トマトが日本で初承認

2020年12月11日にゲノム編集技術を利用して作出したGABA高蓄積トマト「シシリアンルージュハイギャバ」が日本で初めて承認されました。

株式会社サナテックシードが筑波大学と共同開発したトマトで、血圧を下げる効果やリラックス効果があると期待されている機能性成分GABAを多く産出するようにゲノム編集を行っています。

日本で初めてのゲノム編集食品ということで話題になったので、日本初のゲノム編集トマト「シシリアンルージュハイギャバ」について解説したいと思います。

※筆者は、大学時代に生物系の研究室で酵素の遺伝子を組み換えて機能改変をする研究をしていたので、ゲノム編集に関して多少の知識があります。

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品種改良の方法

農作物の品種改良は、収穫量や耐病性・食味などの性質を向上させるために行われます。

これまでの品種改良は、別々の品種を交配する方法突然変異による方法でした。

一方でゲノム編集による品種改良では、通常は偶然の要素に頼ることが多いのですが、遺伝子を操作することで狙った通りの特質を発現させることができます。

別々の品種を交配する方法

違う品種同士を交配してそれぞれの特徴を持った農作物を作り出す方法です。
例えば、甘いトマトと病気に強いトマトを掛け合わせると病気に強くて甘いトマトが生まれることがあります。

この方法だと親の特徴が決まっているので、突然変異による方法に比べてやりやすいので種苗会社などではこちらの方法で品種改良を行っています。

突然変異による方法

突然変異とは、親から子へ遺伝子を受け継ぐ過程で何らかの要因によって遺伝子が変化して親とは違う性質の子が生まれる現象です。
この現象を利用するのが突然変異による方法です。

例えば、アルビノと呼ばれる色素を持たない生物も突然変異で生まれた生物です。
色素を作る遺伝子が突然変異で機能しなくなることでアルビノの生物が生まれます。

この方法は偶然に頼る方法のため、自然界で偶然発生したいい特徴を持ったものが普及することがほとんどです。
(DNAに刺激を与えて故意に変異が起こりやすくする方法もないことはありませんが・・・)

ゲノム編集による方法

ゲノム編集による方法では、目的の特徴を発現する遺伝子配列を特定して改良したい農作物に導入したり、変異を入れるだけで狙った特徴を持った農作物を作り出すことができます

これまで行われてきたようなゲノム編集を使わない方法に比べると、狙った遺伝子を直接改変できるので大幅な時間短縮になります。

日本では初めてゲノム編集食品が厚生労働所省に承認されましたが、国外では遺伝子組み換え大豆やトウモロコシがすでに承認され、日本にも流通しています。

 

クリスパー・キャス9

シシリアンルージュハイギャバは、クリスパー・キャス9という方法でゲノム編集を行っています。

クリスパー・キャス9は、細胞内のDNAを狙ったところで切断する技術です。
遺伝子が分断された状態は生物にとって致命傷になるので、細胞にはDNAを修復する機能がそなわっています。
この修復機能のエラーを利用して不要な遺伝子を破壊したり、新たな遺伝子を挿入することでゲノム編集が行われています。

クリスパー・キャス9という技術は2012年に発表された比較的新しい技術ですが、これまでの方法に比べてDNAの編集が容易になったということで2020年にノーベル化学賞を受賞しました。
通常ノーベル賞は発表から何十年もたって、有用性が十分に認められて初めて受賞となります。
しかし、クリスパー・キャス9は有用性・汎用性の高さから僅か8年での受賞でした。

実際、分子生物学の世界では任意のDNAを簡便に増幅可能にしたPCRに並ぶ発明として注目されました。

これまでゲノム編集ツールは作成が難しく、専門企業や作成になれた研究グループと共同研究しなければいけませんでした。
一方クリスパー・キャス9は、これまでの技術に比べて簡単に使うことができるためゲノム編集の研究が盛んにおこなわれるようになりました。

 

GABAとは

GABAはγ-アミノ酪酸(gamma-Aminobutyric acid)というアミノ酸の略称で、主に神経伝達物質として作用します。

GABAと聞くと一昔前の「GABAは身体にいいらしい」というフレーズのCMを思い出す人も多いのではないでしょうか。
私も受験生だったこともあり、チョコレートを食べながら勉強していました。

近年の研究で、高血圧の方の血圧上昇の抑制やストレス緩和効果があると報告されています。

 

機能性トマト シシリアンルージュハイギャバ

シシリアンルージュハイギャバは、ゲノム編集技術を使ってGABAが多く作られるようにしたトマトです。

トマトにはGABAを作るための遺伝子があり、この遺伝子から作られた酵素がGABAを合成します。
この酵素には、通常だとある程度GABAを合成したら作るのをやめる機構がついています。
クリスパー・キャス9を使ってGABAの合成をやめる機構をコードする遺伝子が機能しないようにゲノム編集をしています。

結果的に、通常のトマトに比べてGABAを多く含むトマトがなります。

 

シシリアンルージュハイギャバの入手方法

シシリアンルージュハイギャバは、株式会社サナテックシードのホームページからモニターの申し込みをすることができます。

募集期間 21年3月末日

苗の提供時期 2021年5月中旬〜6月中旬を予定

発送内容 9cmポット実生苗x4株、液肥2本、粉剤1袋、1セット

 

まとめ

今回は、日本初のゲノム編集食品であるシシリアンルージュハイギャバを紹介しました。

私自身大学時代にゲノム編集に関わる研修をしていたので、日本初のゲノム編集トマトのと聞いて興味がわきました。
(若干テンション高めで記事を書いています。笑)

遺伝子組み換えというと、拒絶反応を示す人が多いのは事実ですが、個人的にはリスクの先に技術の進歩があると考えています。

初めて人間が火を使うようになってから、いまだに火が原因の事故が起こっています。
ゲノム編集に限らず、利便性の向上には相応のリスクを負う必要があるはずです。

農作物でのゲノム編集は、今後食糧問題や品質向上に大きく寄与すると考えられています。
また、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムで、穂の多いイネや毒ないジャガイモの研究も進んでいます。

シシリアンルージュハイギャバに関しては、目的の箇所以外のDNAに変異がないか全DNAの解析を行っているはずだし、もともとトマトに含まれる成分を多く生産するようにしているだけなので大きな問題はないのかなと思っています。

最後にシシリアンルージュハイギャバの苗が手に入ったら、栽培の様子をブログに公開する予定です。

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